このゲストブログは、Evolutio社の共同創設者兼CTOであるLaura Vetter氏によって執筆されました。
Splunkの『2024年のオブザーバビリティの現状』レポートによると、金融サービス業界では他の業界に比べて、オブザーバビリティ向上の取り組みが進んでいます。組織が所有しているネットワークインフラについては53%、パブリッククラウドインフラについては50%の金融サービス企業が「可視化がかなり進んでいる」と評価しており、どちらも高い割合です。
しかし、金融サービス業界のオブザーバビリティの現状を詳しく見てみると、オブザーバビリティのリーダー的組織に該当する金融サービス企業の割合は12%にとどまっています。リーダー的組織は主に、テクノロジースタック全体を十分に可視化している、コンテキストと共に問題を検出できる、問題に先手を打てる、プラットフォームエンジニアリングなどの手法を取り入れて組織全体にオブザーバビリティを組み込んでいるなどの成果を達成している組織です。調査では40%の金融サービス企業が、オブザーバビリティジャーニーの初期段階にありました。
この結果は納得のいくものです。Splunkのパートナーであり、オブザーバビリティに重点を置いたコンサルティングを提供するEvolutioは、多くの銀行、保険会社、投資信託会社、資産管理会社、商社、フィンテック企業がさまざまなレベルでオブザーバビリティの成熟度向上に取り組む姿を見てきました。金融サービス企業は通常、支店での取引を集約し、顧客にサービスとして提供するための大規模なITスタックを抱えています。私も実際にこれらのシステムを目にしましたが、こうした重層的で広範なスタックを、ログベースの監視プロセスなどの従来の手法で監視するとなると、ビジネス中心の視点を備えた真のオブザーバビリティを効率的に築くのは困難でしょう。
では、金融サービス企業にとって、先進的なオブザーバビリティプラクティスを取り入れる価値はあるのでしょうか。もちろんです。むしろ、それを最優先課題にすべきです。そう断言するのには大きな理由があります。それは、データドリブンの機敏な運営が求められる競争の激しいこの業界では、オブザーバビリティへの小さな投資が大きな違いを生むからです。
金融サービス企業がオブザーバビリティの将来に期待できる理由はたくさんあります。
新たなイノベーションにより、ログベースのオブザーバビリティから、メトリクスとトレースを重視したアプローチへと転換できます。これによって、業界全体でのデータの爆発的な増加に対応しながらコストを抑えることができます。さらに、以下のような疑問を解決して、ビジネスに関するより深いインサイトを獲得できます。
EvolutioはシスコとSplunkの統合を歓迎しています。両社のテクノロジーが融合することで、金融サービス企業は、デジタル環境全体でより豊富なビジネスコンテキストを引き出して、こうした疑問の答えをすばやく見つけられるようになります。Splunk AppDynamicsとの統合によって強化されたSplunk Observabilityでは、オンプレミスとクラウドのどちらで運用されているかに関係なく、内製アプリケーションとサードパーティアプリケーションの境界や3層アーキテクチャとマイクロサービスの境界を越えて、ネットワークからインフラ、アプリケーションまでを包括的に可視化できます。これにより、革新的な金融プロセスを実現し、成長を加速させることができます。
Splunkの『2024年のオブザーバビリティの現状』レポートでは、オブザーバビリティで後れを取っている金融サービス企業がリーダー的組織へと進化するために導入できる、有望な3つの領域のイノベーションを紹介しています。その3つとは次のとおりです。
先進的なオブザーバビリティプラクティスを実践すれば、完全なシステム停止や大規模な問題を検出するだけでなく、より下層でのコードの欠陥やインフラの問題を検出および修正して、深刻な被害の発生やユーザーエクスペリエンスの低下を防ぐことができます。
ここで重要な役割を果たしているのがOpenTelemetryです。OpenTelemetryは、複雑なハイブリッドIT環境でもビジネス関連のデータを確実かつ効率的に収集するための手段を提供します。ベンダー独自のエージェントやコレクターが不要になり、ロックインを回避できるメリットもあります。
ただし、『オブザーバビリティの現状』レポートによると、金融サービス業界ではOpenTelemetryの導入時に互換性の問題に直面する企業の割合が57%にのぼり、全業界の平均である46%を大幅に上回っています。
その要因として、金融サービス業界では、ログや外形監視など、従来のオブザーバビリティ技法を早期に導入した企業が多く、それが逆に足を引っ張っていることが考えられます。
従来の手法から脱却してOpenTelemetryのような最新のリソースをフル活用するには、ソフトウェアの構築方法を見直す必要があります。そのための第一歩は、開発チームにオブザーバビリティのエキスパートを配置して、上流工程からオブザーバビリティを意識することです。新しいアプリケーション、プロセス、テクノロジーを可視化する方法をソフトウェア開発ライフサイクル(SDLC)の初期段階で検討することが重要です。
金融サービスではスピードがすべてです。たとえば、新規ローンの獲得の場合、1万ドルの自動車ローンであろうと100万ドルの住宅ローンであろうと、多くの場合、最初にオファーを出した銀行が契約を勝ち取ります。ビジネス関連データをすばやく収集して実務に活用できれば、その分、大きなビジネス成果を達成できます。
また、AIの活用例として、根本原因の自動修復がかなり現実味を帯びています。実現すれば、問題を修復するために必要な時間とリソースを節約できます。
ただし、AIのメリットを引き出すには、十分なデータが必要です。たとえば、最も人気のある自動車ローンはどれかといった大きな疑問に答えるには、スピード、オファーの内容、借り手の属性、ディーラーのタイプなど、さまざまな切り口でデータを分析する必要があります。
金融サービス業界のオブザーバビリティの現状によると、金融サービス企業の99%がオブザーバビリティの取り組みで生成AIの利用を検討しています。そこで結果を出すには、しっかりと戦略を立てることが重要です。
Evolutioは、シスコとSplunkの力を借りれば、適切なすべてのデータを統合して、AIの探求から価値創出への道筋を描くことができると確信しています。両社のソリューションを基盤としてAIを活用することで、業界に大きなインパクトをもたらすことができるでしょう。
世間でAIブームが過熱する中、金融サービス業界ではプラットフォームエンジニアリング専門チームの導入が加速しています。プラットフォームエンジニアリングは基本的に、ソフトウェアエンジニアのツールチェーンとワークフローを標準化し、セルフサービス型のプラットフォームを構築するためのアプローチです。これによってエンジニアは、ツールの管理に費やす時間を減らして、革新的な新製品の市場投入に集中することができます。
金融サービス業界では、約4分の3 (73%)の企業が、プラットフォームエンジニアリングを広範囲に、または一部のプロジェクトで実践しており、さらに23%が、今後1年のうちに実践する予定であることが、金融サービス業界のオブザーバビリティの現状として報告されています。
金融サービス市場は競争が激しく、銀行取引や売買はミリ秒単位の勝負になっています。急速に進む顧客の要求の変化、競合企業の進化、規制の強化に対応するために、金融サービス企業は俊敏性を維持する必要があります。
プラットフォームエンジニアリングは、クラウドへの移行、マイクロサービスアプローチの導入、または単にキャパシティの増減のスピードとコスト効率の向上など、企業の優先課題に対応するために必要な俊敏性をもたらします。『2024年のオブザーバビリティの現状』レポートでは、プラットフォームエンジニアリングチームを持つ組織の55%が、その最大の成果として、IT運用の効率が向上し、スケーリング、監視、トラブルシューティングなどの業務が改善したことを挙げています。
オブザーバビリティプラクティスの成熟度向上は一夜で達成できるものではありません。特に、リスクの緩和とセキュリティの維持が常に重要課題である業界では時間のかかる取り組みです。さらに、真のオブザーバビリティを実現するには文化面の変化も求められ、それは1つの旅と言ってよいでしょう。
Evolutioは、金融サービス業界のお客様に、この旅を一歩ずつ着実に進むようにアドバイスしています。OpenTelemetry、AI、プラットフォームエンジニアリングの導入を進めることは重要であり、大いに役立ちますが、それがすべてではありません。
優れたプロセスと適切なプラットフォームを取り入れた堅実なロードマップを整備することが不可欠です。オブザーバビリティの旅に近道はありません。今いる場所から始め、適切なペース配分を設定して、先進的なオブザーバビリティプラクティスの構築を目指す必要があります。そうしてこそ、最後に努力が実を結ぶのです。
金融サービス業界のオブザーバビリティの現状については、こちらをご覧ください。
オブザーバビリティ向上の旅のどの地点にあっても、EvolutioはSplunkのパートナーとして、オブザーバビリティのリーダー的組織を目指すお客様をご支援します。
EvolutioがSplunk Observabilityを活用してお客様のオブザーバビリティプラクティスの変革をどのように実現するかについては、evolutiops.com/financial-servicesをご覧ください。
Laura Vetterは、監視、SRE、オブザーバビリティの方法論とツールのSME (Subject Matter Expert:特定分野の専門家)です。特に、Cisco Observability、Splunk、AppDynamicsなど、競争の激しいパフォーマンス監視市場のツールによるソリューション提案を得意としています。また、SAP ERPのグローバル展開環境の監視にも精通し、ガバナンス面でDevOpsチームと連携して、よりセキュアで高品質なソフトウェアデプロイを支援しています。IT運用の現場で20年以上にわたって大規模チームを率いた経験を持ち、フォーチュン500企業のような、多数のアプリケーションを運用する組織でパフォーマンス監視ツールを活用して可視化要件を満たす方法を熟知しています。
Laura Vetterは、CTOとして、また技術変革のビジョナリーとして、アラートやビジネス関連ダッシュボードに関する要求を包括的に満たす戦略を主導しています。自ら率いるチームと共に、お客様のオブザーバビリティ戦略のロードマップを作成し、オブザーバビリティジャーニーのどの段階にあっても成熟度を向上できるよう支援しています。