AI+量子コンピューティング(AIQ:AI+Quantum)がもたらす未来の製造チームの姿を想像してみましょう。
2035年の気持ちの良い木曜日の朝、AIQの製造チームがオフサイトのチームミーティングで、新しいアプローチについてブレインストーミングを行っています。AIも量子コンピューティングも飛躍的に進歩しましたが、人間を凌駕するような汎用人工知能(AGI:Artificial General Intelligence)はまだ登場していません。そんなわけで、依然として人間であるJohnが工場長を務めています。意外に思われるかもしれませんが、Johnはデータサイエンティストではなく、コーディングもできません。しかし、この分野で長年の深い実務経験を持つ彼は、AIQである5人のAIエージェントのサポートを得ながら、人間の監督者としてこのAI搭載工場の運営に手腕を振るっています。
チームがコーヒーの代わりにトークンでリフレッシュしているその横では、大ベテランのLLM、Oliviaが生成AIの黎明期の思い出に浸っています。でも実はOliviaも進化していて、すごいトークン化技法を披露しています。
その時突然、量子世界の番犬Miloが激しく吠え立てました。量子ビットの「重ね合わせ」能力を備えるMiloは、AI搭載工場のどこにでも同時に存在することができ、スマートで安全かつ持続可能な製造の最適化を実現しています。Miloが吠えるのは良い兆候ではありません。実際、Miloはディープフェイクマルウェアを使ってデジタルツインに侵入したAIQファミリーの悪者、Mossiusを捕らえたのです。
OTセキュリティを守護するSecoは、即座に大胆な行動計画を思いつきます。彼は、さらなる被害が発生する前に、感染した14の産業用制御システムをすぐさま破壊することをJohnに提案します。Johnはそのアイデアを受け入れ、Secoがそれを実行します。
その間に、生産AIの達人であるAdamが、製造AIロボットのCaesarの助けを借りながらロットサイズワンの自律型生産ラインを復旧しました。その一方で、AIサステナビリティの妖精Emiaは、工場のエネルギーコスト、エネルギー効率、カーボンフットプリントの最適化を目指してエネルギー管理に取り組んでいます。
OEE (総合設備効率:可用性xパフォーマンスx品質)が完全に復旧され、Miloは、抜かりない仕事ぶりのご褒美としてJohnがくれた骨代わりのトークンに嬉しそうにかじりつきます。
有名なGartner社のAIハイプサイクルではAIブームはすでに幻滅期に入っているとされていますが、それとは非常に対照的に、著名なAIリーダーたちは「まだこれは始まりに過ぎない」と考えています。彼らは、私たちの常識を覆し、世界を再構築するような前例のない技術進歩に取り組んでいます。これは特に製造業の分野において顕著です。
たとえば、NVIDIA社のJensen Huang氏は先頃のGTC基調講演で、初期の知覚AIから生成AIを経て、エージェントAI、物理AIへと進化していく過程について論じました。Gartner社は、この進化の過程を次のような言葉で表現しています。
“生成AIの次のフェーズとして、エージェントAI、そしてフィジカルAIがやってきます。AIエージェントは、人間による最小限の監督のみで自律的に行動し、複雑な環境に適応しながら目的を達成する能力を持つようになります。これは、さまざまな業界や環境でビジネスに大きな影響を与えることになるでしょう”
出典:2025年3月のGTCにおけるNVIDIA社CEOのJensen Huang氏による基調講演
Meta社のYann LeCun氏によれば、生成AIと大規模言語モデル(LLM)による現在のパラダイムには物理世界の理解が欠けているため、まもなく過去のものになるかもしれないとのことです。ダボス会議のセッションでLeCun氏が「AIアーキテクチャの新たなパラダイム」が5年以内に登場し、今後は「ロボティクスの10年」になるとの予測を語ったとTechCrunchが報じています。
Markets and Marketsによれば、このような開発の動きに後押しされ、製造業におけるAIの世界市場規模は、2023年から2028年の間に7倍に成長し、2028年までに210億米ドルに達すると推定されています。
フィジカルAIとロボティクスの組み合わせが、今後製造業で重要な役割を果たすことになるのは明らかです。しかし、それだけではありません。
ついに量子コンピューティングの優位性が発揮されるようになります。このことはすでにいくつもの大手テクノロジー企業から相次いで発表されており、最近ではD-Wave社による発表もありました。近年の技術的ブレークスルーを考慮すると、特定の用途に限れば、量子コンピューティングが従来型コンピューターの性能を大きく上回るのは時間の問題です。量子コンピューティングと大規模なAIの組み合わせにより、今後世界が一変するでしょう。
「この最新テクノロジーの圧倒的なポテンシャルは、現代最先端のスーパーコンピューターをもってしても解決不可能な問題を解決できてしまう性能にある」とシスコのシニアバイスプレジデント兼グローバルイノベーションオフィサーであるGuy Diedrichは、Forbes誌の記事「AIの次に来るもの:量子コンピューティングの未来(英語)」で述べています。また、「今年、量子機械学習の分野でブレークスルーが訪れるでしょう」とKipu Quantum社の共同CEOであるEnrique Solano博士は予測しています。
© Deutsche Messe
世界最大の製造業見本市であるHannover Messeでは、当然ながらAIが主要トピックとなりました。ちなみに、2011年にインダストリー4.0という言葉が生まれたのもこの見本市でした。直近の2025年4月に開催された見本市では、ドイツのデジタル産業連合会であるBitkomがドイツの製造業を対象に標本調査を実施し、以下のような重要な調査結果を得ました。
製造業では、AIの後押しによってパフォーマンスとレジリエンスが新たな高みに引き上げられつつあります。AIエージェントはすでに登場しています。これまで生成AIは、AIアシスタントとしてテキストや画像の生成にのみ使用されていましたが、現在では製造現場での作業支援にも活用されています。その他の一般的なAIのユースケースとしては、予測分析、シミュレーション(特にデジタルツイン)、最適化、自動化などがあります。これらのユースケースについては、IDCの最近のレポート「A Strategic Approach for AI Implementation in Discrete Manufacturing (組み立て製造業におけるAI導入の戦略的アプローチ)」でも取り上げられています。
最も重要なのはマインドセットの転換です。
「すべてのエンジニアリングプロセスと製造プロセスが定義された後は、たとえば従来型の変更管理などは不要になるでしょう。今後はその役割を相互接続されたAIエージェントが引き継いで、デジタルツインの内部で自律的に処理していくことになります。これは言ってみれば自動運転のようなものです」(Bosch Rexroth社のHarald Lukosz氏)
物理AIに関しては、高い性能を誇るヒューマノイドロボットやコボットが次々に登場しており、今年も例年のようにBoston Dynamics社のロボット犬が会場を歩き回っていました。しかし、フィジカルAIはまだ開発の途上にあります。その成功の鍵を握る要因の1つが産業グレードの堅牢性です。
IoT World Todayのレポートによれば、まず第一歩として、ロボティクス企業のDexterity社からMechがリリースされました。同社はこれを、物流と製造を変革するために開発された初の産業用スーパーヒューマノイドロボットと位置づけています。Mechは、フィジカルAI(オンボードAIスーパーコンピューター上で動作する数百のAIモデルで構成されるシステム)を使用して、各種の複雑なタスクの内容を理解しながら処理していきます。たとえば、乱雑に置かれた箱をきれいに積み上げるタスクや、狭いスペースの中で、組み込みのセンサーを使って2本のアームを調整しながら壊れやすいパッケージを繊細につかむといったタスクまでこなします。
Hannover Messeでの実態調査の結果に関する補足として、個人的見解を3つ付け加えておきます。
1. 重要なのはエコシステム
常に強調しているように、重要なのはあくまでチームワークであり、性能の高い個々のAIエージェントではありません。ソフトウェア、インテリジェントマシン、インフラが組み合わされ、分野を超えて相互接続されたAI+量子コンピューティングによるデジタルエコシステムを構築することによって、企業間でのプラットフォームを超えた協業、データの安全な共有、イノベーションの共同推進が可能になります。産業オートメーション、ソフトウェア、デジタルインフラの各企業が連携できるAIエコシステムのメリットを想像してみてください。
2. 新技術である量子コンピューティングはAIとの連携によって真価を発揮
確かに、量子コンピューティングの分野ではまだChatGPTのようなブレークスルーは起こっていません。しかし、製造業界の先進的な企業、たとえば航空宇宙産業などにおいては、新しい耐食性材料の最適化やシミュレーションといった用途での実験が始まっています。このように、量子コンピューティングはAIとの連携で可能性を切り拓く技術と言えます。
これは、Kipu Quantum社のような革新的なスタートアップ企業にとって魅力的なビジネスチャンスをもたらします。Kipu Quantum社は、カウンターダイアバティックプロトコルによる最先端のアルゴリズムを活用している企業です。同社は、ジョブスケジューリングのような難解な最適化問題を量子コンピューターで解決可能な形式に変換するための強力なフレームワークであるHUBO (Higher-Order Unconstrained Binary Optimization)マッピングの専門技術を提供しています。
3. AIリーダーとAIから取り残された企業という深刻な二極化
ここまでに述べたことのほとんどは、AIリーダー、つまりAIを積極的に採用している製造業には確かに当てはまります。AIリーダーになるのは、AI専任の人材を確保できるような大規模なグローバル企業であることが一般的ですが、将来性のある革新的なスタートアップ企業である場合も少なくありません。その一方で、デジタルトランスフォーメーションが進んでおらず、AIの導入に関心の薄い企業、つまりAIから取り残されている企業もかなりの割合を占めています。その多くは中小規模の企業(SME)であり、AIへの取り組みを進めるための専門知識や資金が不足しています。
Zeppelin社は建設機械、電力システム、機器レンタル、プラントエンジニアリングの販売およびサービスにおけるグローバルリーダーです。ブログ記事「ゼロからLLMリーダーへ:Splunk環境でのAIアシスタントの計画、設計、運用(英語)」で、同社がSplunkのデータをLLMと接続してLLMとのインタラクションを実現した方法を紹介しています。
目標は、従業員が中古機械に関するあらゆる価格情報を照会できるAIアシスタントを作成することでした。AIアシスタントに対して、「ドイツでCaterpillar MH3022の価格は過去6カ月間でどのように推移しましたか?」といったプロンプトを使って質問することができます。
© Zeppelin
Audiの車体工場で世界初の仮想制御による製造技術が導入されました。Splunkのお客様であるAudi社は、AI対応ネットワークを構築し、ソフトウェア定義型の新たな製造パラダイムを実現することにより、次世代スマートファクトリーの分野をリードしています。同社は先月、ドイツのバーデン=ビュルテンベルク州にあるAudi社の工場において、仮想プログラマブルロジックコントローラー(vPLC)を初めて導入したと発表しました。これは、OT分野にIT技術を取り入れる幅広い戦略の一環であり、Audi社の新しいソリューションであるEdge Cloud 4 Production (EC4P)を基盤としています。
シスコをはじめとする主要パートナーの支援を受けて開発されたEC4Pは、仮想化スマートオートメーションをさらなる高みに引き上げています。現在のところ、EC4Pはベーリンガーホフ工場の車体組立ラインのオートメーションセルの管理に使用されていますが、将来的には、最大規模の多数のロボットやシステムを効率的に制御できるようになることが期待されており、同時にハードウェアの削減、エネルギー需要の低減、セキュリティの向上が見込まれています。
Splunkのお客様であるBosch Rexroth社は、産業用およびモバイルソリューションとファクトリーオートメーション向けの駆動/制御テクノロジーの分野で世界をリードするオートメーション企業の1つです。同社は、Splunkを活用したエネルギー管理のためのオブザーバビリティプロジェクトを実施しました(実装はSplunkのパートナーであるConsist社が担当)。ドイツのウルムにあるモデル工場のエネルギーコストの削減、エネルギー効率の向上、カーボンフットプリントの削減を目的としたこのプロジェクトは、最終的に表彰を受けるまでの成功を収めることになりました。
プロジェクトチームは、価格管理(ピーク管理)、可用性(スタンバイ管理)、タイミング(運用スケジューリング)という3つの主要分野に取り組むことで、大規模な最適化を実現しました。これには、予測、予報、アラートの機能を備えたAI/機械学習モデルが活用されています。
また、これをBosch Rexroth社のFactory Orchestration Platform (FOP)と緊密に統合することにより、フライホイール効果に基づく改善の好循環を視野に入れた継続的な最適化が可能になりました。
その結果、以下のような節約効果が見込まれています。
エネルギーコスト(EUR) | 20〜30% |
エネルギー消費量(kWh) | 10〜15% |
カーボンフットプリント(CO2e kg) | 25〜30% |
何もかもがトークン化される未来が来るのでしょうか?量子世界の最適化番犬Miloは現実のものとなるのでしょうか?そして、人間の工場長であるJohnは、バイブコーディングに頼りながら、AIQである5人の相棒と一緒に自分の役割を守っていくことができるのでしょうか?主要な関係者が誰であっても、分野を超えて相互接続されたデジタルエコシステムの中で全員が力を合わせる必要があります。しかし、何より重要なのは、話題や流行に流されず、しっかりとした基盤を持つことです。
「AIとまったく同様に、量子テクノロジーもその可能性を最大限に引き出すためには、堅牢で拡張性の高いネットワークが必要です。基盤となるデジタルインフラがしっかりしていなければ、AIも量子コンピューティングも理論的可能性の段階から実用段階へと進化を遂げることはできません」とシスコのシニアバイスプレジデント兼グローバルイノベーションオフィサーであるGuy Diedrichは強調します。
当然のことながら、AIをもってしても未来を予測することは至難の業です。
このブログはこちらの英語ブログの翻訳、前園 曙宏によるレビューです。
Splunkプラットフォームは、データを行動へとつなげる際に立ちはだかる障壁を取り除いて、オブザーバビリティチーム、IT運用チーム、セキュリティチームの能力を引き出し、組織のセキュリティ、レジリエンス(回復力)、イノベーションを強化します。
Splunkは、2003年に設立され、世界の21の地域で事業を展開し、7,500人以上の従業員が働くグローバル企業です。取得した特許数は1,020を超え、あらゆる環境間でデータを共有できるオープンで拡張性の高いプラットフォームを提供しています。Splunkプラットフォームを使用すれば、組織内のすべてのサービス間通信やビジネスプロセスをエンドツーエンドで可視化し、コンテキストに基づいて状況を把握できます。Splunkなら、強力なデータ基盤の構築が可能です。