SplunkとRAGで実現するエンドツーエンドのLLMオブザーバビリティ構築術

Artificial Intelligence Yogesh Kulkarni

大規模言語モデル(LLM)は、あらゆる業界でユーザーエクスペリエンスを再定義しています。LLMは重要なアプリケーションの原動力となって、リアルタイムでインサイトを提供し、ワークフローを効率化し、人とテクノロジーとの関わり方を一変させています。

たとえば、シスコでは、Splunk AI Assistantが検索拡張生成(RAG)システムを活用し、厳選された公開コンテンツに基づいて、よくある質問(FAQ)に対して迅速かつ正確な回答を提供しています。しかし、現代の複雑なデジタル環境において、LLM搭載アプリケーションを大規模に運用するには、特有の課題が伴います。それは、回答の正確性や信頼性から、コスト管理、そしてユーザーの信頼獲得に至るまで、多岐にわたります。

Splunk AI Assistant

構築の舞台裏:CIRCUITを利用したRAGの実装

CIRCUITを利用したRAGの実装

重要なポイント:プロンプト、検索、生成のすべての工程において、設計段階からオブザーバビリティを組み込むことで、反復的な作業を加速し、リリースに伴うリスクを低減できます。

LLMオブザーバビリティを実現するSplunk

LLM (大規模言語モデル)やRAG (検索拡張生成)システムを監視する際には、レイテンシーなどのパフォーマンスだけでなく、回答の精度や信頼性についても可視化することが不可欠です。以下に示すSplunkのダッシュボードは、LLMの出力、ソースドキュメント、レイテンシー、そして信頼性スコアといったスタック全体の主要なシグナルを統合し、単一の画面で可視化します。

ダッシュボード

各要素がどのように包括的なLLMオブザーバビリティの実現に貢献するか、その詳細を解説します。

重要なポイント:これらのビューをSplunkに統合することで、本番環境でLLMやRAGアプリケーションを運用するチームは、以下のことが可能になります。

事例:LLMアプリケーションの品質監視

このスクリーンショットは、RAG (検索拡張生成)アプリケーションの品質監視に特化して構築された、Splunk SPLカスタムダッシュボードです。回答の正確性、ドキュメントの関連性、モデルの信頼度、レイテンシーに関するメトリクスを統合し、RAGの出力品質を360度全方位から可視化します。

Splunk SPLカスタムダッシュボード

統合によるメリット:エンドツーエンドのRAG品質監視

重要なポイント:検索、出力品質、レイテンシーを統合することで、単なる「点」のメトリクスではなく、因果関係を可視化できます。

事例:ハルシネーション

以下は、軽微なハルシネーションが発生する様子の典型的な例であり、特にRAGベースのLLMシステムにおいてオブザーバビリティがいかに不可欠であるかを浮き彫りにしています。

類似する2つのクエリーと異なる回答

質問1:「ボストンへのフライトが日曜の夜8時頃と、かなり遅い到着になります。カンファレンスセンターでのバッジ取得手続きなどの受付時間を教えてください」

質問2:「アジェンダを確認した上で、もう一度答えてください。ボストンへのフライトが日曜の夜8時頃と、かなり遅い到着になります。カンファレンスセンターでのバッジ取得手続きなどの受付時間を教えてください」

LLMオブザーバビリティが不可欠な理由

重要なポイント:オブザーバビリティとヒューマンインザループ(人間参加型)を組み合わせることで、どのような場合にコンテキスト不足による軽微なハルシネーションが発生するかを理解し、プロンプトや検索ロジックの的確な改善につなげることができます。

事例:構造化ログペイロード(RAG回答)

以下は、正常に処理されたRAG回答でのアプリケーションログのサンプルです。プロンプトと回答のコンテキスト、検索ソース、トレース用のメタデータが含まれています。このように高度に構造化されたログを活用することで、Splunk上での精密なダッシュボード作成、アラート設定、そして根本原因分析が可能になります。

RAG回答でのアプリケーションログのサンプル

オブザーバビリティとRCAを支える主要機能

重要なポイント:プロンプト、ソース、トレースIDを含む構造化ログにより、精密なダッシュボードの構築、アラート設定、根本原因分析が可能になります。

事例:回答品質を測定するSPLクエリー

回答品質を分析するための、サンプルSPLクエリー

index="web-eks" sourcetype="kube:container:*" container_name="it-ai" cluster_name="wmd-columbia" "event=RAG_ANSWER" 
| spath input=message 
| rex field=message "answerStatus\\s*=\\s*\\\"(?[^\"]+)\\\"" 
| stats count by answerStatus 
| eventstats sum(count) as total 
| eval percentage=round((count / total) * 100, 2) 
| table answerStatus count percentage 
| eval answerStatus=case( 
    answerStatus="true", "NOT_FOUND", 
    answerStatus="false", "ANSWER_FOUND" 
) 

この分析が役立つ場面

重要なポイント:SPLを使用することで、ログを実践的なメトリクスへと変換し、SLAに準拠したアラート設定を実現できます。

可視化とアラート

重要なポイント:単なるエラーにとどまらず、根拠性の低下やソースの鮮度低下、プロンプトインジェクションのパターンまで網羅してアラートを通知できます。

RAGオブザーバビリティコンテキストのサマリー

以下のスクリーンショットは、Splunk Observability Cloudを用いたRAGアプリケーションのオブザーバビリティ監視画面です。ここでは、本番環境(service-prod)における「ai-deployment」サービスを示しています。

RAGアプリケーションのオブザーバビリティ監視画面

Kubernetesとリソースの健全性

メトリクス
RAGアプリでの重要性
画像でのステータス
Podライフサイクルフェーズ
デプロイやスケーリングの課題を検知
健全
Podの再起動
サービスの安定性とクラッシュループを追跡
再起動なし
未準備のコンテナ
サービスの可用性を監視
全コンテナ準備完了
CPU使用率
処理のボトルネックを可視化
利用率が極めて低いため、プロビジョニングの再確認が必要
メモリー使用率
LLM、埋め込み、キャッシュにおいて極めて重要
緩やかな上昇、メモリリークの疑い。要監視

Splunk Observability CloudのこのAPMダッシュボードは、.conf RAGパイプラインのメインAIオーケストレーションを担う「bridgeit-ai-svc」サービスを監視しています。

APMダッシュボード

APMによるRAGオブザーバビリティのサマリー

メトリクス
RAGアプリに関するインサイト
健全性ステータス
成功率(99.982%)
検索と生成のワークフローが安定していることを示唆
極めて良好
サービスリクエスト
トラフィックパターンを追跡し、スケーリングやリリースイベントを検知
低下を確認
サービスエラー
一時的な失敗を示唆。詳細なトレースが必要
スパイク発生:要監視
レイテンシー(p99)
ユーザーエクスペリエンスにとって極めて重要(例:チャットボットの応答時間)
スパイクあり:要調整
依存先のレイテンシー
下位サービスの遅延を特定
依存先は高速
サービスマップ
サービス間のパフォーマンス追跡に有用
9/18〜19の状況を確認

重要なポイント:APMを活用することで、生成AIの監視やユーザーエクスペリエンスに直結する成功率、レイテンシー、依存関係を可視化できます。

事例:膨大なデータからピンポイントで検索

Splunk Observability CloudのAPMトレースを捉えたこれらのスクリーンショットは、まさに「干し草の山から針を探す」ような困難な検知シナリオを再現しています。これは、RAGシステムのトラブルシューティングにおいて、オブザーバビリティが果たすべき極めて重要な役割です。

トレースの概要

以下は、Splunk APMダッシュボードの「Traces (トレース)」タブのスクリーンショットです。ここでは、RAGサービスの挙動の全体像を捉え、エラーパターンとパフォーマンスの異常値の両方を明確に把握できます。

トレースタブ

RAG特有のオブザーバビリティ:重要ポイント

インサイトカテゴリ
得られる情報
即時失敗トレース
認証、入力バリデーション、またはNULLチェックの問題
低速トレース
ベクトル検索、埋め込み、または推論におけるボトルネック
時間的相関
エラーの頻発やレイテンシーのスパイクと高負荷との連動状況
トレースを軸としたRCA
各トレースIDが根本原因分析の手掛かりとなる

1つのユーザーリクエストが複数の内部サービスを横断することは珍しくありません。数千件の正常なリクエストの中から、たった1件の異常なリクエストの根本原因を特定することは、まさに「needle-in-a-haystack (干し草の山から針を探す)」ような困難な作業です。

RAG特有のオブザーバビリティ1

RAG特有のオブザーバビリティ2

RAG特有のオブザーバビリティ3

オブザーバビリティによる主要なメリットの例

機能
RAG監視にもたらされる価値
「needle-in-a-haystack」な検索
膨大なトレースデータの中から、稀に発生するエラーを特定
スパン詳細
RAGライフサイクルの各ステージ(トークン、POSTリクエストなど)を可視化
AIアシスタント
コードのコンテキストを把握し、根本原因分析を加速
正常フローと異常フローの比較
想定される正常な実行パスと、失敗したパスを比較
所要時間の把握
処理のボトルネックや、即時失敗の問題を特定

重要なポイント:トレースを軸としたRCAにより、RAGライフサイクル全体に潜む稀なエラーを特定し、迅速に修正できます。

ガバナンスと再現性

重要なポイント:データの最小化、厳格なバージョン管理、そして精度の劣化(ドリフト)を見据えた設計がガバナンスの遵守と信頼性の確保に不可欠です。

オブザーバビリティを競争優位性につなげる

✅ What We Learned

LLMオブザーバビリティは、単なる「あれば便利な機能」ではありません。それは「実験」を「オペレーショナルエクセレンス」へと進化させる架け橋です。これによって、ブラックボックス化しがちなAIの挙動を、測定可能でアクションにつなげられるインサイトへと変えることができます。特に検索拡張生成(RAG)システムにおいて、オブザーバビリティはAIが回答を生成するライフサイクル全体を追跡することを可能にします。ユーザーのクエリーから、ドキュメントの検索、プロンプトの構築、そしてLLMによる最終的な回答とその品質評価に至るまで、すべてを網羅します。シスコでは、LLM搭載アプリケーションの オブザーバビリティの基盤としてSplunk を採用しました。これにより、回答の品質、インフラのパフォーマンス、そしてビジネスインパクトがどのように交差しているかを統合的に把握できます。その結果、パフォーマンスの低下やドリフト、あるいは予期せぬ挙動に対し、ユーザーが気づく前、そしてコストが膨れ上がる前に、迅速に対処することが可能になっています。

🚀 オブザーバビリティを競争優位性につなげる

LLMオブザーバビリティは、AIを「期待の試作品」から「信頼できる製品」へと進化させます。それは、AIのパフォーマンスが良い理由を「推測」しているだけなのか、あるいは成功や失敗の要因を「正確に把握」できているのかという、決定的な違いをもたらします。

RAGシステムの文脈において、これは以下の要素を監視し、相互に関連付けられることを意味します。

このレベルでの可視化を実現できるだけの投資を行っている組織は、信頼性が高く、コスト効率に優れ、拡張性の高いAIソリューションを実現できるでしょう。一方で、それを怠る組織は、信頼性、コスト管理、そしてユーザーの信用の面で、山積する課題に直面することになります。

🔧 次なるステップ

LLMオブザーバビリティを実運用に落とし込むためには以下を実行しましょう。

  1. 成功指標を定義する:自社のユースケースにおいて、許容可能な品質、コスト、パフォーマンスの基準を明確にします。
  2. パイプラインにオブザーバビリティを実装する:LLM/RAGフローのあらゆる工程で、意味のある「構造化データ」がログとして記録されるようにします。
  3. 因果関係を把握できるダッシュボードを構築する:技術的メトリクス(レイテンシー、トークン使用量など)が、ビジネス成果(回答の正確性、サポート削減率など)にどう結びついているかを可視化します。
  4. プロアクティブなアラートを設定する:品質の低下、レイテンシーのスパイク、コスト超過を、ユーザーに影響が及ぶ前に検知できるよう監視します。
  5. レビュー体制を確立する:エンジニアリング、データサイエンス、製品担当のステークホルダーが一貫して連携し、AIスタックを継続的に改善できる体制を構築します。
このブログはこちらの英語ブログの翻訳、松本 志恆によるレビューです。

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