株式会社IT VALUE EXPERTS(IVE)代表取締役。特定非営利活動法人itSMF Japan理事、広木共郷様からの寄稿です。
イントロダクション
第一回ではデータ活用の重要性を論じた上で、データ活用の現状と課題を整理し、第二回では、その課題を解決してビジネスに貢献していくためのポイントについて考察してきた。最後となる今回は、IT組織の未来、これからのIT組織に求められる姿について述べたい。
これからのIT組織に求められること:データドリブンなIT組織への変革
ここまで、IT運用データの活用によってどのようなビジネス貢献が可能かを考察してきた。それでは、IT運用データを活用して継続的にビジネス貢献を実現するにあたって、これからのIT組織にはどのようなことが求められるのだろうか。
筆者は、データの観点で既存のIT組織のあり方を見直し、データドリブンなIT組織に変革していくことを推奨したい。
データドリブンなIT組織に変革していくための要点を、「人/組織」「情報/技術」「プロセス」「パートナー」の観点で簡潔にまとめる。
- 組織全体(外部委託領域も含む)のデータガバナンスのあり方を設計・実装する
- 適切なトレーニングを実施し、関係者のデータリテラシーを高める
- SMO(サービス・マネジメント・オフィス)のようなチーム横断の横串機能を設置し、横断的なデータ分析・活用の役割を割り当てる
(1)人/組織
- 既存のIT運用データを棚卸し、活用の可能性を探る
- 組織横断のあるべきデータアーキテクチャーを(再)定義する
- データ分析プラットフォームを導入・活用する
(2)情報/技術
- 意味のある適切なデータを生み出すために、運用プロセスの(再)整備を実施する
- データアーキテクチャーとIT運用データを維持・管理するプロセスを確立する
- IT運用データを用いたフィードバックと改善のプロセスを確立する
(3)プロセス
- 外部委託先への委託内容にデータ活用の観点を加える(データの記録、データ活用の提案を追加するなど)
- 外部委託先とのプロセス及びデータのインターフェースを、エンド・ツー・エンドの視点から再設計する
- 外部委託先も含めたIT運用データ活用のための分科会(Community of practice)を立ち上げる
(4)パートナー
データドリブンなIT組織への変革のアプローチ
データドリブンなIT組織への変革は、上述したように多岐にわたり、一足飛びに変革することは難しい。これまで、データを中心に据えて業務をデザインしてきていない組織にとっては、どこから手を付けるべきか悩ましいと感じられるのではないだろうか。
そこで、ITサービスマネジメントの最新のフレームワークであるITIL4で定義されている「従うべき原則(Guiding principles)」を基にした改善のアプローチを推奨したい。
従うべき原則は、サービスをマネジメントしていくためのあらゆる活動に適用できる7つの原則がまとめられており、本稿でテーマとした、IT運用データを用いたビジネス貢献にも活用可能である。
(1)価値に着目する(Focus on Value)
ITの価値ではなく、ビジネスの価値に、アウトプット(=顧客に提供したもの)ではなく、アウトカム(=アウトプットにより顧客にもたらされる価値)に着目する。これはすべての原則に優先して活用されるべきものである。データドリブンなIT組織への変革をどこから始めるべきか、何を改善すべきかといった、戦術上の判断が必要になる際の拠り所になる。何を価値と捉えるかについては、本稿で紹介したITによるビジネス貢献フレームワークも参考になるだろう。
(2)現状からはじめる(Start where you are)
IT運用データの活用という新たな取り組みだからといって、身構える必要はない。現状あるデータで、できることを考えてみることが重要である。一つ強調したいのは、データはすでに組織内に「ある」ということだ。もちろん、分析が高度化していけば、新たに収集が必要となるデータは出てくるが、すでにあるデータでも十分に価値を出すことは可能である。
(3)フィードバックをもとに反復して進化する(Progress iteratively with feedback)
IT運用データの分析はどの組織にも適用できる標準的な「型」は存在しない。データ分析の結果をステークホルダーに見せて、経営や事業部門、IT組織内部からのフィードバックを受けて、トライ&エラーで反復的に改善する。組織外の方々からフィードバックを受けることはこれまで気付かなかった新しい観点を得られることも多いため、積極的にフィードバックを受けて改善につなげていくことで、サービスを進化させていく。
(4)協働し、可視化を推進する(Collaborate and promote visibility)
本稿で説明してきたように、IT運用データはIT以外の部門に対しても価値を提供しうる。また、データ分析に価値を感じるかどうかは分析結果を受け取る側次第であるため、組織サイロを乗り越え、データを持って自組織以外の方々と協働しながら進めていくことが肝要である。その際に、企業全体、サービス全体の観点でデータの可視化を進めておくことで、より価値のある分析が可能になる。
(5)包括的に考え、取り組む(Think and work holistically)
ビジネスが求めるスピードでデータ分析の広さ、深さを拡大していく「攻め」が必要である一方で、意味のある、高度な分析をするためにはデータのガバナンスやデータ品質の向上など、「守り」も必要である。IT運用データの活用においては、この攻めと守りのバランスをとりながら包括的に進めていくことが必要である。
(6)シンプルかつ、実践的に進める(Keep it simple and practical)
データ分析だからといって、最初から例えばAIを活用した高度な分析に取り組む必要はない(もちろん、できるに越したことはないが)。わかりやすいところ、ターゲット顧客の価値の出るところから始めればよい。「完璧であることより、終わらせることが重要(Done is better than perfect)」のマインドで進めることが重要である。
(7)最適化し、自動化する(Optimize and automate)
データ分析による価値を増大させていくためには、データ分析プラットフォームの機能を最大限に活用して、分析を自動化、省力化していくことが必要になる。分析を定型化し、さらに高度な分析のための活動にリソースを振り分けることで、より価値の高いインテリジェンスを提供することが可能になるだろう。
本稿のまとめ
デジタル・トランスフォーメーションの推進において、その真価が問われているIT組織にとって、IT運用データの活用は大きな武器となる。企業全体の業務プロセスを俯瞰でき、かつあらゆるデータを押さえているIT組織が、データドリブンなIT組織になることで、デジタル・トランスフォーメーションの推進をリードしていくことは十分に可能である。皆様の組織がこの機を逃さず、その変革に挑戦する際に、本稿の内容が参考になれば幸いである。
以上
広木共郷氏 プロフィール:
大手外資系ITアウトソーシング会社の日本法人にて、ITオペレータ/エンジニアとして複数顧客のインフラ、アプリケーションの運用保守に従事。現場での業務改善経験を基に本社部門企画スタッフとして、ITIL®等のフレームワークを用いた運用業務標準化、また、コンサルタントとして顧客のITサービスマネジメント推進を支援。
2008年にコンサルティングファームに転職し、ITサービスマネジメントプラクティスのディレクターとして、多くの企業のIT組織変革を支援。 2017年にITマネジメントの変革に特化したコンサルティング会社である株式会社IT VALUE EXPERTS(IVE)を起業し、IT/デジタル変革に取り組む組織と個人を支援している。
ITサービスマネジメントの普及団体である特定非営利活動法人itSMF Japan理事。
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