産業用AIとフィジカルAIのセキュリティを確保する:製造メーカーにとっての新たな必須課題

Artificial Intelligence Ewald Munz , Sahil Gupta

執筆者

Splunk

アマゾン ウェブ サービス(AWS)

Nozomi Networks

製造現場の新時代

世界最大の製造業向け展示会であるハノーバーメッセ2026において、ひときわ強く打ち出されたメッセージがありました。それは「産業用AIとフィジカルAIが工場のあり方を変革しつつある」というものです。インテリジェンスは、もはや企業ソフトウェアの中にだけ存在するものではありません。今や、製造ライン上でリアルタイムで稼働する機械やロボット、自律走行車、サイバーフィジカルシステムの内部にもインテリジェンスが組み込まれています。この変化により、自律化や適応型生産、そしてまったく新しいビジネスモデルの出現も期待されています。同時に、以前は存在しなかったセキュリティ上の問題も引き起こします。つまり、今やAIシステムが物理的資産になり、物理的資産がAIシステムになっているからです。ITセキュリティツールも従来のOT制御も、今後の問題に対処できるような設計ではありません。

フィジカルAIとは、現実世界の環境の中で直接認識、推論、行動するために設計されたシステムを指します。フィジカルAIはセンサー、アクチュエーター、サイバーフィジカルシステムを統合し、デジタル世界だけでなく物理世界でも機能するインテリジェンスを生み出します。

産業用AIはデジタルAIとフィジカルAIを組み合わせて、特に産業オペレーションを強化することを目的としており、リアルタイムのデータ、予測分析、機械学習を活用してプロセスを最適化するとともに、自律的な意思決定を可能にします。

こうした特徴、すなわち自律的で、リアルタイムで意思決定を下し、物理世界で直接作動することこそ、フィジカルAIの価値そのものですが、多くのセキュリティツールは、このようなタイプの資産を保護できる設計にはなっていません。

製造業界におけるAI活用の最新フェーズは、製造ワークフローへのフィジカルAIと産業用AIの導入です。特に注目すべきなのは、生成AIやエージェンティックAIが世界の製造業に組み込まれていく中で、フィジカルAIと産業用AIの導入が、その普及という点でも、影響という点でも、急速に進んでいるということです。

Research and Marketsによれば、自律型ロボット、自動運転車、ヒューマノイドシステム、産業オートメーション、ウェラブル端末、スマートインフラ、AIを活用した医療・農業システムなど、世界のフィジカルAI市場は、2026年の約3,830億ドルから2040年までに3兆3,000億ドルにまで成長すると予想されており、この成長はテクノロジー市場で史上最大級と考えられます。

この業界で意外に知られていないフィジカルAIといえば、Amazonで使われている100万体以上の倉庫ロボットで、これは2012年からすでに実用化されていました。Amazon初の完全自律型移動ロボットであるProteusは、安全柵を設けずに人間の従業員と並んで自由に動きまわり、フィジカルAIがすでに大規模に稼働していることを現実に示しています。

製造メーカーにとって、産業用AIとフィジカルAIは、デジタルトランスフォーメーションが目指すべき新たな道しるべとなっています。一方セキュリティの観点で、この変化がこれまでにない困難をもたらしている理由は、接続の規模が大きくなったことだけでなく、現在接続されているものの性質にあります。

効率化のメリットから攻撃対象領域の拡大へ

シスコ「2026 State of Industrial AI Report」によれば、製造業におけるAI導入の第一波では、プロセスの自動化や品質の自動検査、エネルギーの最適化といった、効率化のユースケースが主流でした。

こうした効率重視のユースケースは確かに有益ですが、まだ限定的です。これに比べて、産業用AIとフィジカルAIのユースケースは通常、次のような点で異なります。

その結果、攻撃対象領域が拡大すると同時に動的になり、従来のIT/OT制御では対処しきれなくなっています。

この変化がこれまでにない困難をもたらしている理由は、接続の規模が大きくなったことだけでなく、現在接続されているものの性質にあります。ロボット、自律走行車両、PLC(プログラム可能なロジックコントローラー)、ビル管理システムなどの設計は、サイバーセキュリティを念頭に置いていません。AIによって意思決定機能がこれらの資産に直接組み込まれるようになると、情報漏えいが発生すれば、その影響は単なるデータの損失をはるかに超えた広範囲に及びます。攻撃によりフィジカルAIシステムの推論に不具合が生じると、物理的なダメージ、製造の停止、現場での事故などを引き起こすおそれがあります。

しかし、この新たな攻撃対象領域全体で脅威を検知または対応する前に、組織はまず、より根本的な問題を明確にする必要があります。すなわち、組織のOTやIoT環境で何が稼働しているのかという点です。製造環境内の資産の検出を行うことで、ITチームやセキュリティチームが把握できていないデバイスや接続も常に明らかになります。たとえば、レガシーPLC、パッチ未適用のセンサー、管理外のクラウド接続などです。AI導入の加速にともない、こうした可視性のギャップはリスクを倍増させる重大な要因になります。

AI導入の拡大は産業環境全体にわたってサイバーセキュリティのリスクを高める」—シスコ「2026 State of Industrial AI Report」

AI導入の拡大は産業環境全体にわたってサイバーセキュリティのリスクを高める

前述のシスコのレポートによれば、サイバーセキュリティ上の懸念事項は今や、産業環境でAI導入を進める上で、最大の阻害要因の1つとなっています。

産業用AIとフィジカルAIのセキュリティを確保するための統合アプローチ:Nozomi Networks、Splunk、AWS

このような製造業界の新しい現実のもとでは、単独の製品やサービスでセキュリティを確保することはできません。だからこそ、Nozomi Networks、Splunk(シスコ)、AWSは力を結集して、製造メーカーが自信を持って前進できるよう支援しています。

この提携により、以下の実現を支援します。

Nozomi Networks:セキュアなAI導入の基盤としての可視性

見えていないもののセキュリティを確保することはできません。またフィジカルAI環境において、理解していないものを見ることはできません。IT/OTの統合やAIの導入を進める製造メーカーにとって、OT資産の動作を決定するプロトコル、挙動、運用コンテキストなど、資産を完全に可視化することは、他のすべてに先立つ前提条件になります。

しかし、従来のITセキュリティツールはOT環境向けに設計されていません。そのため、PLC、SCADAシステム、ロボット、センサー間の通信を規定する産業用プロトコルであるModbus、PROFINET、DNP3、EtherNet/IPなどを理解できません。その結果、フィジカルAI環境の最も重要な資産が、セキュリティチームからは非常に見えづらくなっており、しかもこのギャップは拡大しつつあります。多くの場合、フィジカルAI資産はレガシーOTインフラ上で最新のプロトコルを動作させている状態であり、もともとITツールからは把握できなかったネットワーク上にエッジ推論エンジン、MQTTブローカー、独自のAIランタイムなどを積み重ねています。そのため可視性に関する複合的な問題、つまり、レガシーOT資産もAIに特化した新しい資産も、どちらも把握できないという問題が発生しています。

このギャップに対処するのがNozomi Networksです。ノンイントルーシブでパッシブ(システムに影響を与えない受動的)な資産検出モードとアクティブな資産検出モードの両方を提供し、OT、IoT、ビル管理システムを横断して継続的に監視することができます。Nozomiは、業務を妨げることなく、接続されているすべての資産について、挙動、脆弱性、他のシステムとの関係を含むリアルタイムのインベントリを構築し、検知、対応、ガバナンスを実現するための基盤を提供します。

資産インテリジェンスを整備することで、製造メーカーは正常な挙動をベースラインとして異常を早期に検知し、レガシー資産とフィジカルAI資産全体で脆弱性を特定するとともに、コンテキストが付加されたクリーンなOTテレメトリをSOCレイヤーに提供することができます。また、OTネットワークの死角であり、ラテラルムーブメントの経路として悪用されるケースが増えているビル管理システムまで、可視化できるようになります。

NIS2指令の遵守がEMEA諸国の製造メーカーの変化を促進

EMEA諸国の製造メーカーにとっては、規制によって緊急性がさらに高まっています。NIS2指令がEU加盟諸国全体で施行されたことで、必須事業者および重要事業体は資産インベントリの維持、脆弱性の管理、インシデント報告に関する厳しい期限など、明確な義務を課されることになりました。第21条は、OTセキュリティプラットフォームが提供するべき機能に直接対応しています。

NIS2指令の遵守は、手持ちの資産を把握することから始まります。Nozomiは資産の検出、脆弱性の評価、継続的な監視を通じてNIS2指令への対応の土台となり、規制要件を運用上の優位性に変えることができます。OTの可視化に投資する製造メーカーは今や、法令遵守の義務を果たすだけでなく、自信を持ってフィジカルAI導入を進めるための基盤を構築していることになります。

資産の検出、挙動の標準化、異常の検知が完了すると、そのインテリジェンスはSplunkのIT/OT SOCに取り込まれ、統合されたAIドリブンな対応機能の一翼を担います。対応機能はすべてのITおよびOT資産全体をカバーし、AWSインフラによってスケーリングされ、維持されます。

Splunk:IT/OTのエージェンティックSOCで統合レジリエンスを実現

Splunkは、ガートナー社SIEM (セキュリティ情報/イベント管理)部門のマジック・クアドラントで11年(2015~2025年)連続で リーダーの1社 と評価されています。これは、脅威の検出、調査、インシデント対応の分野での長年にわたるSplunkのリーダーシップを証明しています。

統合レジリエンスのためのエージェンティックSOCを支えるSplunkは、セキュリティデータ、分析、ツール、AIを統合して、定型業務の自動化、ワークフローのオーケストレーション、複雑なインサイトの導出、プロアクティブなリスク軽減を実現します。Splunkはオープンなデータファブリック、強力な分析、統合されたツール群、人間参加型(HITL:Human-in-the-Loop) AIなどを統合プラットフォームにまとめ、セキュリティ運用の概念を一新しました。Splunkによって、製造メーカーでは次のことが可能になります。

IT/OTのエージェンティックSOCで統合レジリエンスを実現

次世代の強力なセキュリティコンセプトを導入することは、工場のセキュリティ強化に効果的です。Splunkは統合レジリエンスの一環として、専用のOT Security Add Onを提供し、その実現を支援します。Splunk Add-On for OT Securityは、導入済みのSplunk Enterprise Securityフレームワークを拡張して、OT環境のセキュリティの可視性を高めます。このアドオンを導入することで、オフィス(IT)環境と現場(OT)の両方をカバーし、Splunk Enterprise Securityの活用範囲を広げて、脅威の検出やインシデントの調査、対応力を強化できます。

Nozomi Networksのような既存のOT専用セキュリティ製品のデータを取り込んで、IT環境とOT環境を包括的に可視化することもできます。

Nozomi Networksは、Splunkbaseの統合アプリを通じてこのレイヤーに直接データを送り、Splunkの分析を補完するOTテレメトリを提供します。

AWS:大規模でセキュアなクラウド基盤

実際の製造ライン上でフィジカルAIが稼働する場合(シフト勤務をこなすヒューマノイドロボット、倉庫を行き来する自律走行ロボット、リアルタイムで判断を下すAIドリブンの品質検査システムなど)、現場のエッジから企業クラウドへのデータの移動はきわめて重要な経路となります。そしてこの経路は、OTテレメトリが1バイトでも現場から送信される前に、セキュリティを確保しておく必要があります。

AWSは、産業用AIとフィジカルAIを実現するセキュアでスケーラブルなクラウド基盤を提供します。セキュリティを導入後に後付けするのではなく、最初から基盤の中に組み入れています。

AWSのManufacturing Applications & Technology Modernization(MATM)フレームワークでは、これを連動する4つの層で構成しており、各層は次の層の前提条件となっています。

大規模でセキュアなクラウド基盤

MATMフレームワークは、クラウドセキュリティの基盤であるID管理、暗号化、ネットワーク分離、継続的監視の層から始まり、そこから積み上げられていきます。まずAWS自体のセキュリティ態勢を検証します。次に3社連携のソリューションを機能させます。ここでは、Nozomi Networksが可視化したOTデータがAmazon Security Lakeに取り込まれ、Splunkがリスクベースアラートと自動対応を通じて、すべてを統合して相関付けます。その結果実現するのが、1つの管理画面で1つのチームが統一された対応サイクルで運用するIT/OT統合型のSOCです。

製造メーカーにおける次のような現実的なシナリオを考えてみましょう。IT側では、AWSでSAPのモダナイゼーションを進めており、サプライチェーンの可視化と製造計画のために、S/4HANAをクラウドに移行します。同時にOT側では、現場のフィジカルAIシステムからリアルタイムのデータを取り込むために、エッジ接続を導入します。この2つの取り組みが、1つに融合しました。SAPは、フィジカルAIシステムから取得したリアルタイムの製造データを必要としており、一方フィジカルAIシステムは、SAPから得られる作業指示や品質の仕様を必要としています。こうしてITとOTは一体化し、セキュリティリスクも不可分となりました。

Nozomiによる可視化、Splunkによる一元化、AWSによるスケーリング。これはもはや単なるテクノロジースタックではなく、フィジカルAIをサイバーセキュリティ上の弱点から競争優位性へと一変させるセキュアな基盤です。

展望 — 効率性からレジリエンスへ

次の10年の間に、産業用AIとフィジカルAIは、製造メーカーの競争力を決定づける要因となるでしょう。また、AIとIT/OTのセキュリティを不可分と考え、設計、ガバナンス、スケーリングを一体的に進める企業がトップに立つでしょう。

産業用AIとフィジカルAI+IT/OTのサイバーセキュリティは、製造業を支えるかけがえのない新たなパートナーです。

関連リソース

このブログはこちらの英語ブログの翻訳、池永 隆次郎によるレビューです。

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