AIエージェントがMCPを使ってあらゆるものにアクセスできる今でも、データプラットフォームは必要なのか?

Artificial Intelligence Hanlin Fang

主なポイント

  1. MCPは、AIエージェントがツール、システム、データソースに接続するための標準的な方法を確立しました。とはいえ、接続さえすれば「運用上の真実」にたどり着けるわけではありません。
  2. 本番環境において、エージェントは信頼できるコンテキスト、エンティティ間の関係性、ビジネスへの影響、ガバナンス、裏付けとなる証拠といった「運用上の真実」を必要としており、それらを提供するのはデータプラットフォームです。
  3. エージェンティック時代になって、データプラットフォームの戦略的な重要性は高まっています。なぜなら、エージェントによる推論や、アクションの推奨や発動はデータが基になるからです。

AIと機械学習に関する製品を10年以上にわたり率いてきた経験から、「この新しいテクノロジーによって、基盤を支えるプラットフォームの重要性は低下するのか?」で始まる問いに対しては注目するようにしています。

この問いはクラウドのときにも、機械学習プラットフォームのときにもありました。生成AIのときにもまた、同じ問いを耳にしたのです。今は、AIエージェントやモデルコンテキストプロトコル(MCP)について、次のような問いが聞こえてきます。「エージェントが多くのシステムのツールやデータにアクセスできる今でもまだ、データプラットフォームは必要なのか?」

これはもっともな問いです。

MCPは大きな前進でした。AIアプリケーションやエージェントによるデータの取得、ツールの呼び出し、ワークフローへの参加などについて、個々のチームが1回限りの統合をいちいち構築することなく、より標準化された方法で実現することが可能になりました。

しかし、「アクセスすること」と「理解していること」は、同じではありません。

多数のシステムにアクセスできるエージェントでも今なお、信頼できるデータの選別、エンティティ間の関係性、起きた変化、ビジネスにとっての重要事項、提案を裏付ける証拠などを把握する必要があります。つまり、MCPがあるからといってデータプラットフォームが不要になるわけではないのです。それどころか、データプラットフォームの重要性は高まっています。

アクセスと真実は別のもの

1番わかりやすく言うと、MCPが提供するのは、エージェントがシステムに入るための道筋です。データプラットフォームが提供するのは、システム内のナビゲーションマップです。

ある経営幹部が実際のインシデントの真っ最中に「ヨーロッパで決済失敗が急増しているのはなぜか?」という単純な問いを投げかけたとしましょう。MCPで接続しているエージェントは、決済ダッシュボードの呼び出し、ログの検索、オブザーバビリティ(可観測性)メトリクスのチェック、ネットワークコントローラーへのクエリ、不正防止プラットフォームの検査、デプロイの確認、チケットの検索、ランブックの読み取りなどを実行するかもしれません。

そう聞くと、心強く思えます。しかし、エージェントが事実を収集した後の問いに答えるのは、もっと困難な作業となります。重要なのはどのシグナルか?信頼性が高いのはどのシステムか?payment-service、checkout-payment-api、pay-eu-prodはすべて同じものなのか、それとも違うものなのか?決済アプリケーションに不具合があるのか、それとも依存関係でエラーが発生したのか?不正防止ポリシーのアップデートがあったのか、ネットワークに変更があったのか、もしくはその両方か?影響を受けるのはどの顧客か?

MCPのおかげで、エージェントはシステム全体に問いを投げかけやすくなります。しかし、さまざまな回答を自動的に整合させ、信頼できる運用の全体図を描き出すことはできません。その役割を担うのがデータプラットフォームです。

エージェント、MCP、データプラットフォームの関係図

図1. MCPが提供するのは、エージェントがシステムにアクセスするための道筋です。データプラットフォームが提供するのは、エージェントが現在地を把握し、次にどこへ進むべきかを理解するためのマップです。

決済失敗急増のシナリオ

午前10時5分、ヨーロッパで決済失敗率が2%から9%近くにまで上昇しました。ドイツとフランスで決済完了率が低下し始め、サポートへの問い合わせが増加しています。経営陣からの質問は単純です。「何が起きたのか、何をするべきなのか?」

MCPで接続したエージェントは、有益な事実を収集できます。決済ログはタイムアウトエラーを、オブザーバビリティメトリクスは遅延の増大を、デプロイシステムは決済アプリケーションのリリースが最近なかったことを、不正防止プラットフォームは午前9時58分にポリシーの変更があったことを、ネットワークコントローラーは午前10時に一部の地域でトラフィックのルート変更があったことを、ビジネスメトリクスは午前10時5分から決済完了率への影響が出始めたことを、それぞれ示しています。

これらの情報は有益ではありますが、ばらばらです。

Cisco Data Fabric, powered by the Splunk Platformなどのデータプラットフォームは、こうした断片的な情報を「運用上の真実」に変換するのに役立ちます。データプラットフォームは、決済サービスが決済ジャーニーの一部であることを踏まえたうえで、これを不正検査、ネットワークのルーティング、決済の依存関係、顧客の地域、ビジネスへの影響、サービスのオーナーシップなどに関連付けます。

ここで、答えが明確になりました。新しいデプロイが原因で、決済アプリケーションの不具合が起きたわけではありませんでした。根本原因と考えられるのは、不正行為の結果生じたネットワークのルーティング変更であり、そのせいでヨーロッパの決済承認過程に遅延が発生したのです。ビジネスへの影響はドイツとフランスに集中しており、この2カ国では決済完了率が低下しています。次の一手は、必要な不正対策を維持しながら決済承認トラフィックのルーティングをチェックするか、または一時的に調整することです。

これが、「事実の羅列」と「運用に基づく回答」との違いです。

エージェントに伴いデータプラットフォームの必要性が高まる理由

ダッシュボードの時代には、人間がデータプラットフォームを使って検索や調査、意思決定を行っていました。データが不完全だったり矛盾していたりしても、経験豊富なアナリストなら補正できたでしょう。

エージェンティック時代になると、エージェントが運用データの新たな消費主体となりました。エージェントはデータを取得するだけではありません。データの要約や関連付けを行い、提案し、最終的にはワークフローをトリガーします。そのため、ハードルは高くなります。今や、質の悪いデータは、ダッシュボードの質を悪化させるだけではないのです。提案の質も悪化させ、ひいては質の悪いアクションにつながる可能性があるということです。

企業のリーダーは、MCPやデータプラットフォームを代用品と考えてはなりません。MCPが対応するのは、「エージェントはシステムに接続してタスクを実行できるか?」という問題です。データプラットフォームが対応するのは、「エージェントは、データの意味や他のデータとの相関関係、信頼性、さらにそのデータがビジネスにとって重要な理由を理解できるか?」という問題です。

データプラットフォームで特に重要な要素の1つはナレッジグラフです。これによりエージェントは、サービス、アプリケーション、ユーザー、ホスト、ネットワークパス、ビジネスプロセス、ポリシー、オーナー、依存関係、過去のインシデントなどの共有マップを把握します。このマップがないと、すべてのエージェントはコンテキストをゼロから作り直すことになります。その場合、あるエージェントはある関係性を推測し、別のエージェントは別の関係性を推測し、3番目のエージェントはポリシーのコンテキストをすべて見落とすかもしれません。

数千のエージェントに数千の個人ノートを作らせる必要はありません。その代わり、すべてのエージェントと人間のチームが信頼を置けるような、運用に関する共有された理解が必要となります。

エージェント型運用の図

図2:エージェント、MCPによるアクセス、データプラットフォームのコンテキスト、推論、信頼できる結果までを網羅したエンドツーエンドの全体像。

経営陣が留意すべきこと

エージェンティック時代の到来によって、データプラットフォームが時代遅れになるわけではありません。私たちがデータプラットフォームに求めるものが変化するのです。今やデータプラットフォームは、データの保存、検索、分析を行うだけの場所ではなくなりました。Cisco Data Fabric, powered by the Splunk Platformは、マシンデータ、コンテキスト、関係性、ガバナンス、裏付けとなる証拠を、1つの信頼できる運用レイヤーとして統合することにより、エージェントの理解を助ける基盤となっています。

MCPによって、エージェントがシステムに接続する方法が拡張されます。しかし、エージェントが接続できるシステムが増えると、次の課題はさらに重要なものとなります。「エージェントは、どうやって真実を見分ければ良いのか?」ということです。Cisco Data Fabricにとって、これは製品の中核となる課題です。すなわち、断片的なシグナルをつなぎ合わせ、来歴情報を維持しながらエンティティ間の関係性を理解するとともに、人間にもエージェントにも運用のコンテキストを利用しやすくするという課題です。

ここにこそ、データプラットフォームの重要性があります。エージェンティック時代に成功を手にするのは、多数のエージェントやツール接続を持つ組織ではありません。勝者となるのは、データを準備し、さまざまな関係性を踏まえたコンテキストを追加するとともに、ガバナンスを確立し、人もエージェントも同一の信頼できる現実の全体像に基づいて行動できる組織でしょう。この役割を担うためにこそ、Cisco Data Fabricは開発されたのです。

MCPはエージェントにデータへの道筋を提供し、Cisco Data Fabricは「運用上の真実」を提供します。「運用上の真実」によって、エージェンティックAIが、よくできたデモから実際に稼働する運用モデルへと転換されるのです。

このブログはこちらの英語ブログの翻訳、井上 綾乃によるレビューです。

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